ビックリグミ酒

 秩父地方の山野で、グミの仲間というと、荒川の河原に点々と自生しているアキグミしか、見たことがない。
 今回のビックリグミは、庭に植えてあったものだ。

 グミの実が熟すのは、ウメより約一週間ほど早い。
 不作の年はさほどでもないが、今年のように豊作の年は、無数の赤い実がぶら下がっていて、なかなか壮観だ。

 今年の春は、どういうわけか、例年いつも、グミのつぼみを食べに来るヒヨドリが、来なかった。
 ヒヨドリは、来れば追っ払ってやるのだが、来ないとなんだか心配になったりする。

 生(な)り年だった上、ヒヨドリの食害に逢わなかったので、なおのこと、豊作になったわけだ。
 このぶんでは、来年はダメだろう。
 ヒヨドリの食害も、グミの木にとっては、栄養のバランスを保つ役をしてくれているのだな。

 豊作の年には、酒にするよりジャムにして食べた方がよい。
 だって、その方がおいしいのだ。

 私のグミジャム作りのレシピは以下の通り。

 1,グミを摘んで水洗いする。ゴミを排除し、傷のついた実も排除する。
 2,グミを鍋に移し(乾かす必要なし)、適量の砂糖を加える。量はお好みの量でよい。私はあまり甘くない方が好みです。水は入れない。
 3,グミと砂糖をかき混ぜて、火にかける。火にかけながら、さらにかき混ぜる。
 4,人肌ほどにまで暖まったら、火を止める。このとき、グミの汁がかなり出ているはず。グミの汁がある程度出るまでかき回した方がよい。
 5,手をよく洗い、今度は手で直接グミをもむ。そして、皮と種と汁をバラバラにする。
 6,金網のザルで濾して、皮と種を排除し、汁だけにする。
 7,汁を再び鍋に移し、火を極小にして、たっぷりと時間をかけて煮詰める。
 8,どこまで煮詰めるかも好みによるが、あまり煮すぎず、ゆるい方がうまいような気がする。

 これで、とってもおいしいグミジャムができる。

 もちろん、果実酒を作ることもできる。

 一年たって仕上がったビックリグミの酒は、鮮やかな赤い実とは似ても似つかぬ上品な黄色。
 たっぷりの酸味と、どこからか浸出してきた甘みがほどよいバランスを保った、旨い酒だ。

 しかし、私の作るビックリグミ酒には、たった一ヶ所、瑕疵ができてしまう。
 それは、ほんのわずかなのだが、酒に濁りを生じることだ。
 この濁りは、コーヒーペーパーで濾しても、とれない。
 リキュールは、舌だけでなく、目でも味わうべきだという私のポリシーからすれば、このわずかな濁りが、許せない。

 たぶん、実を引き上げるタイミングが、少し遅いのだろう。
 悪いのは私で、グミではない。