ヤマナシ酒 |
日本の野生ナシには、いろいろな種類があるようだ。軽井沢の「地梨子」はアオナシではないかという気がしてきた。アオナシは甲信地方に多いらしい。 海尻の近くの板橋川で釣り糸を垂れたことがある。1時間ほど釣ってみたがアタリもなく、結局ボウズだった。川からあがると雑木林の中にヤマナシの木が一本あって、実がついていた。ヤマナシの酒を初めて作ったのはこの時だった。 今あるのは1995年の秋、福島県中通りにある長沼妙見山で拾ったヤマナシの酒である。 この山、『福島県の山』(山渓)のコースで登っていくと、林道歩きがけっこう長い。しかし、ここを自動車で奥まで走ってしまうとヤマナシの僥倖にはあずかれない。
こういう山は、晩秋の平日に、紅葉を観賞しながらのんびり登りたいものだ。ここの林道の途中には、巨大なヤマナシがある。樹高は十数メートル。太いしめ縄を張ったところを見ると、地元では神木と見なされているものだろう。 前日、友人と二人で石筵から安達太良山にアタックしたのだが、四時間のラッセルでようやく船明神の直下まで来て無念の敗退。筋肉痛を源田温泉でいやして、翌日は紅葉の低山ハイクを楽しんだ。 妙見山の四等三角点で(前述の山渓分県登山ガイドの記述「三角点はない」はまちがい)ゆっくり休み、静かな林道をこれまたゆっくり歩いた。巨木の下を見ると落果したヤマナシがたくさんあった。これを拾って集めては、今回の山行でも得るものがあったと喜びながら帰途についたのだった。 今なめてみると、砂糖を入れた覚えがないのにずいぶんあまい。完熟ナシだったからかもしれない。色はやや紅みを帯びた琥珀色。このほの紅さはどこからきたのだろう。
味はやや薬酒っぽさがあるものの、フルーティでもある。板橋川のヤマナシは完全には熟していなかったのでもうちょっとメリハリの利いた味だった記憶があるが、妙見山のはちょっとやさしすぎるかもしれない。 |