深沢七郎傑作小説集の第3巻。
「千秋楽」は、著者がミュージカルに出演していたときの身辺を淡々と記した作品。
著者の作品らしく、盛り上がる場面もなくあっと驚く展開もない。
ミュージカルの舞台裏といっても、これといって面白い事件が起きるわけでもないから、退屈なままに話が終わる。
「東北の神武たち」は、時代も舞台となったところも不明な村で、千年一日のごとき暮らしを営む村人たちの奇妙な生態を描いている。
神武とは次男以下の男のことで、列島のどこでもそうだったように、この村では家族の一員として承認されず、事実上の使用人だった。
頓死した男の遺命によりその女房が、村の神武たちを一人ずつ一夜限りの「婿」にするという噂が広まり、神武の利助はそれを楽しみにするあまり妄想の日を送るのだが、結果的に彼だけが「婿」にしてもらえないという不幸に遭遇するという小説である。
千年一日の如き村の暮らしの中に出来した「一夜婿」という大事件。
その大事件に妄想し、悶え苦しむ男。
これこそ、深沢らしさ全開の作品である。