立石一真の伝記。
井深大や本田宗一郎らは、戦前・戦中から起業して、戦後をくぐり抜け、高度経済成長期にものづくりを極めたベンチャーだった。
立石一真も、それらの人々と世代的にはほぼ重なる。
今の日本にもベンチャーと呼ばれる人々が存在し、その一部は華々しく成功して、巨万の富を手にしておられるが、失礼ながら、これら戦中世代の先蹤者とはどこかちがって、人間的な重みを感じない。
成功するには、素質・努力・運・環境などに恵まれることが必要なんだろう。
古い時代のベンチャーは、素質と努力を限界以上に発揮して、運や環境など、個人ではいかんともし難い条件を突破してきたとみられる。
今の人たちももちろん、並々ならぬ努力をされているのだろうが、ちょっとすぐれた着想と人間力によって一気にのし上がった印象がある。
さらに言えば、戦中ベンチャーたちは、不可能と思われる技術を研究や実験によって可能にし、ありえないと思われてきたものを作り出した。
不可能と思われる技術を可能変えるのは、ものづくりの原点だろう。
本書のタイトルだけ見ると、パワハラ社長の伝記かと誤解しそうだが、そうではない。
工夫と努力によって、できないことはほとんどないという、ものづくりの原点を言い当てた言葉なのだった。