Nスペ取材班『日本人はなぜ戦争へと向かったのか』

 1942年2月9日に、大本営政府連絡会議が開かれた。

 開戦まもないこの時期は、緒戦の勝利を踏まえて戦争をどのように展開するかを決める重要な転換点だった。
 ここで戦略上、戦線の拡大を望む海軍と、自給体制の確立を望む陸軍の対立がはっきりしたのだが、大本営・政府は明確な方向性を出すことができず、
翌月だされた「戦争指導の大綱」でも、対米戦争の方向性に関する明確な方針は出されず、両論併記になった。

 両論併記の結論というのは、議論をかたち的にまとめる方法ではあるが、じつは何も決めていないに等しい。
 開戦からほどなく、日本の戦争指導は根本的なところで迷走し始めていたのだった。

 その結果、ミッドウェー海戦やガダルカナル侵攻など、致命的な敗北を喫した作戦においても、作戦意図が陸海両軍に共有されていないという、驚くべき状態が続いた。

 一方で、占領地域に軍と結びついた民間企業が群がり、甘い汁を吸うとともに、軍人の天下り先を提供していた事実も語られている。
 戦争は、必ずしも悲惨な戦争だったわけではない。
 ある人々にとっては、美味しい戦争だったのである。

(ISBN978-4-10-128376-0 C0195 \460E 2015,8 新潮文庫 2021,12,21 読了)