秩父事件を歩く会の「秩父事件と女たち」研究グループによる調査記。再読。
秩父事件参加者の家族や流れ弾に撃たれて亡くなった女性の周辺を取材している。
『秩父事件の女たち』は、モデルとされた人々の私生活をフィクションによって描いている。
フィクションなのだから事実と相違していても許されるのかもしれないが、名前が明示されていたり、誰と容易に推定できる市井のいち個人の私生活をフィクションによって描く同書の手法に、違和感を禁じ得なかった。
本書は、調査記であって、関係者との信頼関係に基づくていねいな取材を経て、フィクションを廃して叙述されている。
テレビドラマでないのだから、歴史はこのような形で書かれるべきだろう。
秩父事件に至る蜂起準備過程から武装蜂起・逃亡・裁判・処刑・服役・暴徒史観とうち続いた、参加者家族の苦難の日々が語られる。
参加者を直接知る最後の人々がご健在だったころ、事件が民主主義の先駆だと評価されて心から喜んでおられたことを思い出す。
「歴史を作る人々」だけで歴史が作られるわけではない。
これら家族のような、「歴史を支える人たち」を忘却した歴史であってはいけない。