中世社会に関する論考集。
中世の暮らしと社会や風俗について、さまざまな角度から論じている。
教科書に書かれた暮らしや社会関係が嘘っぽいのは、列島の多様性を前提とせずに描かれているからである。
律令国家の成立以降、北海道と沖縄以外の列島の隅々までが日本によって支配されたように描くのは、はっきり言って嘘なのに、66ヶ国に区画された地図で列島を描き、国司や郡司が任命された、と書けば、読者(生徒)はそうなのかと思うだろう。
しかし実際のところ、日本の支配権ははるかに限定的であり、暮らしや社会や風俗の実相も地域や階層により、はるかに多様だった。
政治的な動きと直接関係がなくても、時代の特徴を浮き立たせる事象がたくさんあるということが、本書を読めばよくわかる。
政治的な動きについては支配者によって記録されるが、芸や風俗に関する史料はおそらく、かなり少ない。
著者が描く中世的世界のリアルさは、これがはたして日本の歴史なのかと思うほどに、教科書的記述とかけ離れた印象がある。
他の著書でも著者が強調されていることだが、日本社会を大きく変動させたのが南北朝期だということが、本書にも書かれている。
近世になれば、史料は画期的に多くなる。
地域の風俗について徹底的に調べることにより、時代像や地域像をより鮮やかに描くことが可能なはずだ。
そういう課題に取り組まねばならない。