笹の海で泳ぐ
−日向見から栂ノ頭−

【年月日】

2001年9月23日
【同行者】 Nさんと二人
【タイム】

日向見(8:45)−とりつき (9:45)−この間タイムとらず
日向見(17:45)

【地形図】 四万

 当初のターゲットは、コシキの頭。
 群馬県中之条町の中ではあるが、上越国境に近い稜線上にある小ピークである。

 ひさびさに訪れた日向見温泉は、いつしか完成した四万川ダムの堰体に威圧され、摩耶の滝への遊歩道も、延伸された(といってもダムサイトまでだが)国道によって寸断されてしまっていた。
 温泉街から、ぶらぶら歩く遊歩道沿いには、セキヤノアキチョウジ、カメバヒキオコシ、アキノタムラソウ、アブラギク、アキノキリンソウなど、秋の花が、控えめに咲いていた。

 日向見川の水量を一気にたたき込む摩耶の滝は、水量が多めだったこともあって、とても迫力があった。
 遊歩道とわかれ、さらに上流へと向かう軌道あとらしき道を、行く。

 摩耶の滝分岐から数えて三本目の小沢が、おれが考えていた取りつき点である。
 結論的にいうと、この小沢は地形図に記載がなく、ほんとはもう一つ先の小沢まで行くべきだったのだが、この時点でそれはまだ、わからなかった。

 ここまで来て、小休止。
 歩き出しから、ちょうど1時間だ。

 ここから、道は全くなし。
 あまりはっきりしない尾根を、ひたすら急登する。
 周囲は、二次林。
 皆伐のあと、植林しないのはいいとして、あとの雑木の生育がよくなく、貧相な林だ。 おそらく、傾斜がきつすぎるのと、スズタケが萌芽を妨げているのと、二つが原因だろう。

 足元にスズタケが出てくるが、はじめはまばらで、丈も低く、ほとんど問題はない。
 しかし、途中からは、背丈を没するスズタケが、谷側に倒伏したところを急登しなければならない。
 これは、たいへん労力を要する行程だった。

 結局、最初から最後まで、ひどい急登。しかも後半のほとんどは、笹ヤブのこぎ登りという、ひどいルートだった。
 予定の高度を超えてなお、傾斜がゆるまないことが明らかになり、登るべき尾根を、一本まちがえたことを、自覚。
 そのことによって、現在登っているのは、栂ノ頭に登る尾根だと承知した。
 高度を稼ぐと、はるかに、白砂山の勇姿が、樹林越しに望まれた。

 かすかな踏みあとが見え隠れするが、基本的に、道は全くなし。
 ひたすら笹ヤブをこぐだけ。
 ピークの直下で、食べごろのブナハリタケがたくさん出た立ち枯れを発見して、うれしくなった。

 登りついたところは、位置から見ても、ピークの形から見ても、栂ノ頭に間違いはなかった。
 しかし、肝腎の三角点は、どうしても見つからなかった。

 そこから、西への尾根を行く。
 広い尾根上は、ダケカンバやオオシラビソの疎林で、ササも腰ほどだから、展望がよい。

 北には、白砂山や谷川連峰。
 南は、浅間、妙義、赤城、榛名、奥秩父。
 目線の下には、高田山や岳山。

 小ピークを越えると、当初予定していたコシキの頭に向かう途中にある平坦地。
 しかし、ここは、背丈を没するスズタケの密生地で、まともな歩行はおぼつかない、恐るべきヤブなのだった。

 笹ヤブの歩き方は、何種類か、ある。
 登りは、たいへん苦しいので、なるべくササの薄いところを、選びつつ登るのがよい。
 うんと急であれば、四つ足で登ると、とても具合が良かったりする。

 平坦地で、ヤブの薄いところは、強引に進むことも可能だが、ひどいヤブになるとまったく進めないので、足を進行方向に向かって横に踏み出しながら、倒したササの上にのっかりながら進むとよい場合がある。

 ササの深いところは、数メートル離れるとお互いの姿が見えないので、ヤブをこぐ音と手の合図で、お互いを確認しながら行った。

 ササのラッセルを交替しつつ進んだが、13時を回ってようやくコシキの頭を間近に望む地点に到達。
 歩行スピードと距離から見て、この日の登頂は無理と判断。
 笹ヤブの中、尻を下ろして無理にスペースを作り、大休止とした。

 そこから南に下ろうとしたが、ヤブのために、下降点が今ひとつ明瞭でなかった。
 こもごも協議したが、時間がかかっても、来た尾根を下るのが最も確実との結論に達し、ふたたび栂ノ頭に戻って、笹ヤブをこぎ下った。

 途中、ヤマブシタケやナラタケ、早生のクリタケなどを見ながら、いい調子で下ったら、摩耶の滝から2番目の小沢の出合に下りついた。
 ササはひどいが、ひどいササでも、下りはらくだ。

 軌道あとまで下ると5時。
 水場で腰かけながら、Nさんが、「よく、あんな所に行ってきましたね〜」と言われたが、同感だった。

 日向見への遊歩道を歩いていると、高いところにもう、月が出ていた。