奥秩父の原生林を歩いていると、ときどき、神々しいばかりの風格を持つ樹木と出会うことがあります。
 そのような樹を見るのは、いわゆる奥秩父主脈の針葉樹林ではなく、斜面や渓沿いの針葉樹・広葉樹混交林の中です。

 標高1000メートル内外の支尾根の上には、ツガやモミ、ヒノキ、ヒメコマツなどが生えています。
 斜面にはブナ、ミズナラやカエデ類が、そして渓沿いには、カツラ、シオジ、ケヤキなどが生えています。
 亜高山帯にまで登ると、コメツガやシラビソが生えています。

 奥秩父の森は、このように多様性に富んだ、重厚な森です。

 昭和に入ってから高度成長期にかけて、奥秩父の森は、徹底的に伐られてしまいました。
 それだけの商品価値があったのも事実のようですが、まずは伐って売ることが優先して、この森を未来にどうやって残すかという観点は、ほとんどなかったと思われます。

 伐り残されたのは、材の搬出不可能な一部の奥山と、東京大学秩父演習林地内で学術的な価値を認められ、残された森です。

 失われたものの価値を思うと、言葉もありません。
 せめて、21世紀に生き残ることができた、神とも思える樹々からのメッセージを、感じ取りたいものです。