カイタカラコウ

 深山の渓を、遡行していました。
 はじめは晴れていたのに、いつしか、深いガスが斜面にたれ込めてきました。
 まちがいなく、悪天の兆しです。

 まだ降り始めてはいませんが、V字谷の底にいては、たいへん危険だということが、明らかでした。

 脱出開始。

 灌木を手がかりに大滝を巻き、はるか上にあるはずの杣道をめざして、ヤブこぎにかかろうとしたとき、カイタカラコウの群生が、目に入りました。
 急いでシャッターを切り、なおも斜面をはい登って、安全圏にたどり着きました。

 その後、豪雨が襲来し、さっきまで優雅に流れていた渓は、凶暴な野獣のように荒れ狂ったのです。

秩父の渓にて