大洞川水系のイワナ

 大洞川水系のイワナについては、昔、多摩川水系から移植されたものだという口承が記録されていますが、史料は存在しません。

 多摩川源流域と大洞川源流域は直線距離では近接していますが、実際にイワナを生かしたまま分水嶺を越えるのは、そうたやすいこととは思えません。

 この点については、遺伝子的な検討が必要かと思います。
 形態的に見た限りでは、滝川・入川のネイティブと比べて大洞川のそれは、全体的に体色が明るく鮮やかで、口承の正しさを証明しているかに見えます。

 井戸沢・椹谷の源流域ならびにキンチヂミ以遠の上流域では大洞ネイティブが健在。
 ただ、キンチヂミの遥か以遠、井戸沢のかなり上流にまでヤマメが生息域を広げているのが気になります。

 かつて荒沢谷出合で成魚放流が行われていたので、惣小屋谷先までは、遺伝子汚染をこうむっていることが想定されます。とはいえ、形態的にはさほどひどいイワナは見つかりません。
 惣小屋谷、荒沢谷、市ノ沢、和名倉沢の各支流のイワナは、完全にネイティブといえるかどうかやや疑問。

 特に市ノ沢は白斑の大きな個体がたいへん目立ちます。

 惣小屋谷や和名倉沢も釣り荒れていて、ある程度の型にまで成長した個体を見るのがむずかしくなりました。

大洞川イワナ鑑賞の手引き

 キンチヂミ〜椹谷出合間で釣れた約22センチメートルの個体。
 秩父在来イワナの特徴(入川水系のイワナを参照)。
 腹部の橙色が濃く、魚体がたいへん滑らかな感じがするのは、大洞イワナの特徴です。

 これはY沢の個体で27センチメートル。
 上記の特徴を備えており、さらに年月を経て白斑、橙斑が消えつつあります。

 これも最源流にいたもので約27センチメートル。
 かなりの年月を経たものと思われ、橙斑・白斑ともにほとんど消えかかっています。