秩父イワナ概説


秩父イワナについては荒川水系渓流保存会が刊行した『秩父イワナ - 在来種を守るために』に詳しい

 秩父イワナは、相模川水系以北の各水系最源流に生息するニッコウイワナの系統に属する。
 ニッコウイワナ系統には、降海するものと降海しないものがいるが、秩父イワナは降海しないタイプである。

 ニッコウイワナ系統のイワナの形態的特徴は、明瞭な白斑と着色斑があることである。
 白斑の大きさや分布は、水系により、また個体により多様である。
 また、着色斑は黄色から橙色まで、バリエーションが多い。
 さらに、パーマークの残存度も、水系により、若干のバリエーションがあるのではないかと思われる。

 秩父イワナは、一般に、白斑が細かく、測線付近から上に密に存在する。
 この白斑は、幼魚の場合は明瞭かつ大きいのだが、魚体が年月を経るにつれて、細かくなる。

 上は、入川本流で釣れた14センチの幼魚である。
 この個体では、秩父在来イワナの形態的特徴がほとんど現出していない。

 測線から下の白斑は少ないか不明瞭で、年月を経るに従ってさらに小さく不明瞭になる。
 35センチクラスの個体になると、白斑はほとんど見られなくなる。
 下は、30センチクラスの在来イワナだが、白斑も着色斑も不明瞭になりつつある。

 なお、イワナの魚体の大きさは、必ずしもその個体の年齢を示すものではない。
 食餌が少なければ年月を経ても魚体は小さいままだし、食餌の豊富なところで育てば成長は早い。
 形態的特徴は、イワナの年齢に対応して現出するので、必ずしもサイズと相応するとは限らない。

 次に着色斑について。

 秩父イワナの着色斑は、濃い橙色である。
 橙色が濃いため、斑点そのものがたいへん明瞭である。
 源流部においては、約22センチ程度以上の個体が秩父イワナらしい体色を示す。
 また源流域では、着色斑だけでなく、各鰭や測線下の腹部が鮮やかな橙色を呈する。
 しかし、上に述べたように、年月を経たイワナは白斑・着色斑ともに消えていく傾向にある。

 着色斑や腹部の橙色については、食餌との関係が指摘されているが、遺伝的要素についてはいかがなものであろうか。

 最後にパーマークについて。

 イワナである以上パーマークは存在するが、旧大滝村の滝川・入川・大洞川などの源流域の在来種は、ニッコウ系のイワナとしてはパーマークがほとんどない個体が多い。