思えば遠く来たもんだ

 前日までは雨予報だったのだが、曇り案配ではあったものの、降らずに翌朝を迎えた。
 雨だったら停滞のち下山と考えていたのだが、どうにか持ちそうだったので、椎ノ沢に入った。

黒岩の滝(大きな写真)

ツガの大木

 最上流部には近年も、何度か入っているが、核心部に来るのはたぶん8年ぶり。
 このときの遡行記を書いたかどうか、記憶が定かでないけれど、黒岩の滝まで遡って悪天のきざしを感じ、カイタカラコウの写真を撮ったとたんに土砂降りの雨になったことは覚えている。

 最初にここへ来たのは、はるか以前。
 一人で登山道を歩き始めたのが午後3時頃。
 銀杏小屋に着いたときには、もう薄暗かった。
 雨漏りのする古い小屋で、その夜は壁の落書きを熟読して寝た。
 当時の小屋は建て替えられて、今は快適な無人小屋となった。

 朝から椎ノ沢を遡行して、黒岩の滝・百丈の滝を超えて十草沢出合の先まで行って、大急ぎで下山した。
 そのときには、遡行するのが精一杯で、周囲の景観に圧倒されっぱなしだった。

サワラ林とミヤマクマワラビ

ミヤマカタバミ

 今回は荒川水系渓流保存会のベテランお2人が同行となった。
 下部ゴーロ帯はテンカラの振りやすいところだが、釣らずに通過。
 最初のゴルジュを左岸から大きく巻いていったん沢におり、さらに小滝の右壁をへつり登って、滝頭で流れをまたぐのだが、フットホールドが小さいのでちょっと怖い。

 前日の畑ノ沢はほぼ平水と見えたが、こちらはかなりの増水で、遡行にさほど問題はないものの、ポイントがつぶれていて釣りにはならなかった。
 また、山の北面に位置するせいか、水は冷たく、魚の活性もずいぶん低かった。

 黒岩の滝まではすぐだった。
 大場所なので、餌釣りだとじっくり攻めたいところだが、テンカラではやりづらいので、竿も出さずにすぐ下の長ナメ滝と一緒に右岸の巻き。

百丈の滝(大きな写真)

キバナノコマノツメ

 同行したAさんとSさんは、沢が右に折れる手前を下りて滝頭を渡渉したが、自分は今まで同様、大高巻きで沢身に下りた。
 ここからは大淵・小淵が連続して大イワナが期待できるのだが、やはり、水が多くて竿を出す場が少なかった。

 武信白岩沢が近づくと、巨大な転石が積み重なったゴーロ帯。
 傾斜はあるが、かつての氾濫原だろう。
 苔むした一帯にはミヤマクマワラビが群生し、キバナノコマノツメやミヤマカタバミが咲く。
 周囲にはツガの大木もあるが、サワラが多い。
 曇っていたのでミヤマカタバミのほとんどが花を閉じていたが、これが全部開花したら、みごとだっただろう。

 時間がなくなってきたので、竿を仕舞って遡行に専念。
 白岩沢を渡渉するとすぐに百丈の滝。
 かつて見た時に比べて明らかに水量が多く、堂々たる瀑流だ。
 奥秩父に美しい滝は数多あるが、美しさと力強さを兼ね備えた点で、やはり随一の滝と言えよう。

 しばらく滝を鑑賞したのち、斜面を登る。
 アズマシャクナゲが咲き残っているが、鮮度のよいものは少なかった。

ミツバツツジ咲く

アズマシャクナゲ

 椎ノ沢林道は奥秩父でも有数の巨木探勝路だ。
 ヒノキ・オノオレカンバ・ブナ・イヌブナ・ウダイカンバ・バラモミ・ハリギリ・ツガ・ヒメコマツなどを見ながら、帰途を急ぐ。
 昔はスズタケが覆って定かでなかった踏みあとだが、甲武信小屋が刈って下さったおかげでずいぶん歩きやすくなった。

 今ではそのスズタケもほとんど枯れて、見通しがよくなった。
 とはいえ、踏みあとそのものが不鮮明になりつつあるように思う。

 銀杏小屋に着いたころには、全身が筋肉痛になっていた。
 この2日間、よほど力が入っていたものと見える。
 なんといっても久しぶりなのだから、無理もない。

 重荷を背負いなおして登山口に向かったが、約4時間くらいはかかった。