タナビラの渓

小滝とサツキ

 朝の光が渓に満ちていくにつれて、流れをとりまく針葉樹林が浮かび上がってくる。
 ひさびさに訪れた木曽の渓は、7年前とほとんど変わっていなかった。

 前回同様、この日もヤマトイワナに会うのが目的の木曽行きだった。

シモツケソウ

ウツボグサ

 今回のメンバーは、荒川水系渓流保存会の会員8名と、瀬音の森会員でこの水系にくわしい愛知県のSさんの計9名。

 樹木にくわしい人も多いので、林道を歩きながら周囲の森について、こもごも批評するのを聞いてるだけで、いい耳学問になる。

 一帯は国有の人工林だが、さほど整然とした育林を行っているようではなく、さまざまな大きさの各種樹木が雑然と育てられている印象だ。

 比較的手が入っているのはスギ、ヒノキ、サワラ。
 秩父でほとんど見ないサワラの植林地がずいぶん目につく。

 ネズコやアスナロは自然に生えたものばかりのようだ。
 伐採あとには広葉樹の幼木が育ちつつあるが、おおむね全山が迫力のある人工林だ。

 小1時間ほど歩いて、前回竿を仕舞ったところから、Aさん、Sさんと入渓。
 カコウ岩の転石が多く、白っぽい川床に緑色の流れが鮮やかな渓だ。

 最初に釣れてきたのは小アマゴ。
 正しくは小タナビラというべきか。

途中にある滝

ユウスゲ

 朱斑の鮮やかな、宝石のような魚だ。

 前回釣ったときには完全にイワナ域だったところを釣り遡ったが、相変わらずタナビラが出る。
 ここ数年のうちに人為的な混生が進んだようだ。
 これはこれで、困った現象だ。

 イワナの出も速いので、なかなか合わせられない。
 毛鈎は見るだけというここのイワナのスレ具合は、前回と変わらない。

 釣れてくるイワナは20センチ内外の個体で、地模様は流れ紋状。明瞭な白斑はなし。
 この前に釣ったのはもう少し大きな個体だったので、地模様自体がほとんど消滅し、白っぽい魚体に朱斑だけを散りばめていた。

 やはり最低でも22〜23センチ程度にならないと、その川独特の形態は顕現してこないようだ。

 岩場のサツキはそろそろ終わり気味。
 代わってシモツケソウがピンクの煙のような花を両岸のあちこちに咲かせていた。
 この前には目に入らなかったが、クマシデの果穂が岸からたくさんぶら下がっていた。

 この日はお昼前に終了。

赤沢美林の森林軌道

ナツツバキ

 今回も赤沢美林を見学。
 ほんとは少し山を歩きたかったのだが、前夜発でほとんど眠っていなかったため、おれもみんなも疲労困憊しており、とても山を歩けるコンディションではなかったため、森林軌道に乗って、終点から渓沿いを歩くにとどめた。

 こちらの渓は50年の禁漁歴があり、在来種が完全に保護されている。
 まさにイワナの楽園だが、泳いでいるイワナはあまり見えなかった。

 その晩は民宿に泊まってささやかな宴会だったが、早々に沈没(たぶん)。
 翌日も同じ渓を釣ったが、釣果は相変わらず。

 道ばたに咲く、キバナノヤマオダマキ、ウツボグサ、チダケサシ、タマガワホトトギス、ユウスゲなどを眺めなつつ、ヤマトイワナに多少の気持ちを残して、木曽をあとにした。