ひさびさに源流

井戸淵

1997,6,4撮影

 ここは小渓だが、入渓しやすいため、えらく魚影が薄い。
 ここ数年、足が遠のいていたのも、そのせいだ。

 朝一で出かけた入渓地点には、タープとテント。あちゃー。
 でも、話をしたら、目的の谷には行かないとのこと。

 さっそく竿を出すが、まったく反応なし。
 周囲にはシカが多いらしく、シカの声が渓にこだましていた。

 途中の林道でも、シカに二回、ノウサギに一回会ってしまった。
 秩父の山や渓は、シカの楽園だ。

 釣れども釣れどもミニイワナ。
 イワナ幼稚園の先生とまちがえられたらしい。(;_;)

 このイワナたちには、橙点がまだ全然なく、パーマークが残っていた。
 ここは、源流域とはいえ、成魚放流魚の血がまったく混じっていないと、断言はできないのだ。

 白点は明瞭。
 15〜16センチクラスになっても、明瞭な白点のみの個体もいた。
 ちなみに渓の色は、秩父ではたぶん唯一の赤。

 空ビクのままおめあてのベニガラ滝へ。
 右岸の岩が紅色だから、この名前がついたのだろう。
 淵は埋まっていて、期待できず。

 ここからしばらくは、ちょっと不安な高巻き。
 ある程度の大きさになると、橙点がはっきりしてくるが、この渓のイワナはすべて、白点がはっきりしていた。
 伐採時の遺物のワイヤが見えなくなると、原生林で、風情がよくなり、開けたところでほっとする。

 ミニイワナにつきあっていたため、魚止めの井戸淵に着いたのは、お昼前。
 ビクは軽いが、ゴミ袋は重く、買い物袋に4つ。途方に暮れてしまう。

 雨が降ってこなかったので、帰りは休み休み、観木しながら。
 原生林帯の一角に、トチの巨木林。
 最大のもので、胸高の直径約1.5メートル。樹齢は数百年だろう。

 巨トチにいろいろと愚痴をこぼしたら、「まああんまり怒りなさんな。ゴミもよくないが、ダムや林道にくらべればまだ我慢できるよ」と、おっしゃっておられた。

 前に来たときには、このトチが目に入らなかったのだ。

 もう一つの大樹は、アシ沢出合にあった巨大なカツラ。
 ひとつの株から、大きな幹だけでも、7本出ていた。
 大木を見るごとに、腰を下ろしたので、ずいぶんゆっくりの下降となった。

 さあ帰ろうと、自動車を乗り出してすぐに、見慣れない動物と出会った。
 体は真っ黒でとても太っていた。
 えーと。あれだ、あれ。なんだっけ。

 クルマがその動物の真横を通った瞬間、名前を思い出した。
 クマだった。
 おどかして悪かったなあ。かんべんしろよ。

 たぶん彼はこちらのことを「お化けだ」と思ったにちがいない。