瀬戸内寂聴『美は乱調にあり』

 伊藤野枝を描いた伝記小説。日蔭茶屋事件までが書かれている。

 小説だが、多くの伊藤野枝論より、等身大に近い印象がある。

 野枝のような人が、大正時代には、男女を問わず、おおぜいいたのだろう。
 環境のために、伸びようとする内的な力を矯められることは、いつの時代にもあり得ることだ。
 大正時代には、地方で逼塞する若者にも、伸びる道が見え始めていた。

 自ら伸びるにはどうすればいいか。

 野枝の場合、経済的にも能力的にも、自分の力で自分の道を切り開くことはできなかった。
 甘粕正彦らによって虐殺されるまで全速力で駆け抜けた約10年間に、知的にも人間的にも成長を遂げたと思われるが、それはほぼ、夫だった辻潤と大杉栄の知的・人間的な力に依存してのことだった。

 天皇制ファシズムの時代まで彼女が生きていたら、どのような発言をする女性になっていただろうか。
 昭和の時代は、天皇制と戦争にどう対決するかが、大きな思想的テーマとなった。
 思想的に独り立ちした野枝には、またも試練の時代となったかもしれない。

(ISBN978-4-00-602284-6 C0193 \980E 2017,1 岩波現代文庫 2026.9.20読了)

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