大塚久雄『近代化の人間的基礎』

 近代化の典型例はイギリスであり、社会の近代化の前提として、近代的人間類型がなければならないとする。
 戦後すぐの時期に書かれたものであり、アメリカやイギリスの市民社会を理想として描いており、東アジアは「アジア的」に遅れた人間類型が支配的だとするなどはもちろん、読んでいて激しく引っかかる。

 著者が説かれる近代的人間類型とはどのようなものか。

 「自発性、合理性、社会連帯性への自覚、そしてそれらを貫く経済生活の重視という現実的態度」などが。近代民主主義を支える人間像である。
 一見すると真逆の理論のように見えるが、安丸良夫氏の「通俗道徳論」はここにかなり近い。

 このような近代的人間類型(以後「近代人」といいかえる)が、近代を牽引する。
 どのようにしてか。その点について著者は、マルクスの説明を採用する。

 「まず封建的土地所有(=地主)制が分壊し、しかしてそれに相応じて下から向上してくる農民層(正確にはいま少し広く中産的生産者層)のもとに「民富」が蓄積され、それはやがて産業資本に成長する。しかして、封建的土地所有の分壊が徹底的であるだけ、この過程は典型的であり、またその速度も急調となるーーこれこそが、近代化の過程において現実的に革命的な変革の進行しはじめる端緒であり、いわば近代期な社会構造の歴史的形成における正常的な途である。

 明治初年の関東農山村では、だれもが自営民として生糸生産による生活の向上をめざした。
 ここでいう中産的生産者層とは具体的にどのような人々をさしているのかわからないが、生糸生産に関わる諸結社(共同揚返所や生糸金融なども含まれるだろう)に集った人々がイメージされる。

 中産的生産者層は、自営民をバックグランドに持ち、自営民の中から成長する。
 日本においてそのような近代化は実現しなかったのだが、自営民・中産的生産者が何をめざしたのかが、ここに書かれていると思う。

(1968,5 筑摩書房 2026,5,28 読了)

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