2010年代の世界で生起しつつある諸課題を科学的社会主義の立場からどう分析するかを論じている。
本書が書かれてから10年ほどしか経っていないのに、、すでに陳腐化した論点もある。
非常に気になるのは、ロシアとウクライナに関する議論である。
著者は、ウクライナの一部にファシストの系譜を汲む人々が存在する(?)ことや、クリミアにロシア系住民が多いことなどを理由として、ロシアによるクリミア併合に一定の理解を示しておられる。
ウクライナのみならず、ヨーロッパには(ヨーロッパに限らないが)民族問題が存在する。
そこに居住する民族と国境とは、別個に考えたほうがよい。
国境とは、政治的妥協の産物なのである。
「民族自決権」を国境とリンクさせて解決しようとすればするほど、問題は混乱し、激昂する人々を生む。
いかなる論拠があろうとも、妥協の産物たる国境を政治的・暴力的に変更しようとすることこそが、否定されるべき暴挙なのである。
2014クリミア併合をもってロシアは、世界のならず者国家と認定されなければならない。
アメリカの帝国主義性を理由に、EUやNATOは本質的に、アメリカ世界戦略の道具であるというのは現実的でなく、政治的妥協とそれを保障する機構と解したほうが現実的ではないか。
「北方領土」問題について、著者は、プーチンの二島返還提案を評価し、日本はそれに乗るべきだったと述べておられる。
これは、興味深い論点である。
著者が所属している日本共産党は、全千島返還論の立場だと記憶する。
しかし、この主張を実現するには当然、サンフランシスコ条約の部分廃棄が必要となる。
国論を集約するためこれを議論するだけで、何年もかかるだろう。
国論の集約に成功したとしても、ロシアがこれを飲むことは絶対にありえない。
「北方四島」を含む千島列島の領有は第二次世界大戦の結論だというのが、この間のロシアの一貫した立場である。
だから、日本共産党の主張が実現することは、絶対にありえない。
とすれば、どこかで妥協する以外に解決策はないのであり、二島返還論は、そのきっかけになりうるというと著者は述べておられるのである。
現在の世界情勢を解く鍵がマルクスやレーニンの言説にあるというのは、ちょっと無理がある。
原則的な観点を維持しつつ、現実的な見方でフレキシブルに対応する姿勢が、求められる。
2015年の安保法制関連法に反対した市民連合についての著者の議論は、的はずれな点を含みつつ、翫味に値する。
著者は「市民」を、「誰からもいかなる組織からも押し付けられたり動員されたりするのではなく(それを一番嫌う)、ネットで情報を集め、集めた情報をみずから精査し「主權者の一人」として自分自身で考え行動する人」と規定する。
そして、このような人々があらわれた要因として、
? 憲法精神と民主主義の定着による人間意識の変化。自己判断能力と自己表現能力が発展したこと。
? イデオロギーを価値基準にしない。したがって要求は人間的かつ現実的である。
? しかし現代資本主義経済がもたらす未曾有な格差拡大・労働の強化が何かをしなければならないという意識を作り出している。
の三点をあげている。
市民運動とは何かをいずれ考えようと思っているので、これらの点については、さらに深めたい。
ところで、この著者によるこの出版社からの本には、誤植がヒドイということを以前に指摘した。
本書もまた、その例に漏れない。
ひどすぎる。
これでは、まともな仕事をしている出版社とはいえない。