ナチスとは、どのようなドイツを作ろうとしていたグループなのか、論理明快に説明している。
ベルサイユ体制に対するドイツ国民の反感だけが、ナチスへの支持を増長させたというわけではない。
ドイツ国民(当初はバイエルン民)の意識を反映したのがナチスだったということである。
ワイマール共和国時代のバイエルンでは、反ユダヤ主義的な軍人や活動家が盛んに活動しており、ヒトラーもその一人だった。
彼は演説の上手な活動家の一人だったが、それ以外に特筆すべき特徴があるわけではなかった。
反ユダヤ主義だけで、生活に苦しむ国民に訴えることはできないのだが、ナチスは、既成政党との関係の中で一定の政策能力をつけていった。
日本とバイエルンとの大きな違いは、民間の軍事団体の有無である。
廃刀令以降、日本では民間人の公然たる武装は禁じられていたのだが、ドイツではそうでなく、軍から横流しされた武器が民間軍事団体に蓄えられていた。
さらに軍にも、民間軍事団体のシンパは多く、軍による軍事団体への訓練も行われていた。
ヒトラーの挫折点であり結果的に飛躍点にもなったミュンヘン一揆の主体は、軍事団体だった。
結果的に権力を持つに至ったナチスについて、著者は、ドイツ一般国民や政治家・財界などの意識を反映していたと強調される。
東ヨーロッパをドイツ化する計画は荒唐無稽だと思うが、それが一般国民の気分でもあったというのは、驚きだ。
パレスチナで今のイスラエルが行っているのは、ナチスドイツが行おうとしていたことと全く同じだという事実も、興味深い。