聴濤弘『地球限界時代とマルクスの「生産力」概念』

 マルクスの「生産力」概念についての論争。著者への批判も収録されている。

 マルクス・エンゲルスの著作は経典ではなく、考え方の枠組みであり、その思想的枠組みにより19世紀世界を分析したものである。
 21世紀世界の現実に立って世界をどう見るかというとき、彼らの思想的枠組みがいまだに有効であるのは、驚くべきことだ。

 著者や著者の主たる論争相手である友寄英隆氏の議論では、地球環境が持続の限界を迎えたかもしれない今、マルクスらの議論をいかに「拡張」するかが、主たる論点となっている。

 ごく単純化すれば、生産力の発展が生産関係との矛盾を止揚せざるを得ない段階に立ち至ったとき、生産力に見合った社会構成体へと変革される、というのが、史的唯物論(唯物史観)だった。
 しかし生産力が爆発的に拡大し、資本主義的生産関係の矛盾が激化した現在、革命が起きる前に、人類生存の前提である地球環境自体が破滅しつつある。

 生産力は人類史発展の基本的要因だというのが史的唯物論の基本的な考えなのだが、生産力の発展が地球環境の破滅を招来しつつあるのが現実なのである。
 したがって、マルクスの生産力概念は修正されなければならない、というのが、論者たちの基本的な一致点である。

 著者や友寄氏の議論は、生産力概念の修正が必要だとするものだと思われるが、斎藤幸平氏は生産力の発展そのものに懐疑的である。
 自分としては、斎藤氏の言われることに共感的だが、それだけで多くの支持を得るのは難しいだろうと思う。

 ともかく、著者の言われる「一番よくないのはマルクスの解釈権の独占です」という言葉は、じつに重要だと感じた。

 内容に関しては以上だが、本書には校正ミスが異常に多い。
 「まとも」な出版社が出す本で、こんなにお粗末なのは初めて見た。


(ISBN978-4-7803-1231-7 C0033 \1800E 2022,7 かもがわ出版 2025,11,27 読了)

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