昭和時代の日本軍隊の歴史を綴っている。
昭和の戦前史は戦争が続いていたので、日本軍の歴史は昭和の表面史とも言える。
本書が単なる歴史書と異なるのは、昭和の軍隊史を豊富な証言によって描いている点である。
本書のもとになった取材が行われたのは1990年代初頭だったらしい。
そのころ、存命の軍隊経験者が存在していて、高齢とはいえ、取材は可能だったらしい。
2000年代に入れば、これらの人々への取材は非常に困難になっただろうから、貴重な取材記録だと言える。
また、かつての将官・将校より、下士官以下の人々への取材が豊富で、タテマエで動く組織だった日本陸軍の実態がはっきりと描かれている。
参謀本部や陸軍省にいた高級軍人の言説ももちろん重要だが、それが実行される段になるとどうなったかはさらに重要だ。
戦後の平和主義思想はもちろん、大切にすべきである。
しかし、昭和の戦争がどのように計画され、実施され、その実態がどうだったのかを詳細に知ることは、それ以上に重要だと思う。
戦争は悲惨だからイカンと言うだけでは、何も語っていないのと同じだ。
戦前日本は、国家のシステムに致命的な欠陥を抱える国だった。
この本は、そのディテールを明らかにする重要な作業の一環だと思う。