広中一成『七三一部隊の日中戦争』

 旧日本軍による細菌戦の全体像解明の手がかりとなる研究。

 七三一部隊に関しては限られた史料と証言により、実態がわかってきた。
 いっぽう、日本軍(特に陸軍)の中で七三一部隊がどのような位置づけにあったのかについても、解明されてきたことがわかる。

 本書によれば、七三一部隊(と石井部隊長)は、陸軍(及び大本営)上層部から直接の指揮命令を受けて活動していたらしい。
 したがって、関東軍のひとつの部隊というより、日本軍の生物兵器部隊中枢の役割を果たしていたのが七三一部隊だった。

 日本軍の細菌戦部隊が、七三一部隊だけでなく中国全体及び東南アジアに展開していたことも、新たに知った。
 七三一部隊における知見・技術をもとに、北支那方面軍の甲部隊(1939)・上海派遣軍の栄部隊(1939)・南支那方面軍の波部隊(1940)・南方軍の威部隊(1942)が活動した。
 細菌戦は、日本軍の作戦の柱だった。

 本書により得た知見のもう一つは、陸軍が細菌戦にのめり込んだ大きな原因が、東南アジア・太平洋地域における戦闘の激化に伴い、兵力を中国戦線から南方に転用せざるを得ず、中国における戦力が手薄になるのを生物兵器により補おうとしたという点だった。

 本書を読んで、単に残虐な人体実験を行った組織というだけでなく、十五年戦争の一連の流れの中で、七三一部隊を位置づけてみることができるようになった。

(ISBN978-4-569-85949-1 C0221 \1080E 2025,7 PHP新書 2025,10,1 読了)

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