南京事件の全体像を解説した書。ほぼ決定版と言えるのではなかろうか。
南京攻略は、上海攻略戦の延長線であった。
著者によれば、上海での軍事衝突のきっかけとなった大山中尉殺害事件は、海軍による謀略事件だという。
今のところ、その真偽を決定づける根拠は見つかっていない。
大きな問題はここでも、日本軍が中国軍との武力衝突を利用して全面戦争に突入したという点だろう。
南京事件を起こした主体は陸軍だったという印象があるが、著者は海軍の責任を強く主張しておられる。
宣戦布告もない状態で隣国の首都を空爆するような非道は、2025年のイスラエル以外にはないかと思いきや、帝国海軍がそれをなしていたのである。
上海を占領したのち、参謀本部は不拡大方針をとったが、現地は南京進撃を主張し、独断で戦闘を継続し、大本営(このとき設置)もそれを追認した。
戦争拡大の流れは、盧溝橋のときと同じである。
統帥の原則さえないがしろにした責任者は、武藤章と松井石根の二人である。
被害が無限に拡大した背景のひとつに、中支那派遣軍の質の低さがあった。
指揮官らは蛮行を奨励こそしなかったが、規律を守らせる意思もほとんどなく、戦国時代の足軽同然の略奪と暴行を黙認した。
第一〇軍司令官の柳川平助は敗戦前に死去したのでやむを得ないが、松井が処刑された一方で、中支那派遣軍全体のナンバー2だった上海派遣軍の朝香宮鳩彦が戦犯に問われてさえいないのは、不審というほかない。