ヒトラーの評伝。
ナチズムがドイツを支配した原因を解きほぐすのに、ヒトラーがどのような人物だったのかの知ることは、外せない。
本書には、誇大でもなく軽視もされないヒトラー像が描かれていると思われる。
ヒトラーの主張は、1920年代ドイツを席巻した大衆の思想である。
その一つの柱は、ドイツのゆがんだナショナリズムである。
ゆがんだナショナリズムを育てた最大の要因は、ベルサイユ体制にあった。
第一次大戦後、ドイツに全責任を負わせる不公正な戦後処理がなされたことが、ドイツ人の中に醸成された。
ヒトラーも、そのひとりだった。
もう一つは、ドイツ国内で強まった排外主義である。
ユダヤ人に対する迫害は、ドイツに限ったことではなかったが、戦後の経済的苦境にあえぐドイツ人の標的とされたのがユダヤ人だった。
このこと自体は、まったく不当であり、自分たちの苦難の原因がどこにあるのか、ドイツ人は理性的に考えるべきだったのだが、排外主義は理性を混乱させた。
ヒトラーも、そのひとりだった。
ワイマール共和国の苦難の歴史については、『ワイマル共和国』に詳しい。
ワイマール共和国の歴史から学ぶべきは、近代国家が理念により統合されることは、不可能だということだろう。
要はいかに、理念や価値観の折り合いをつけて、一致点に基づく協力を作り出せるかということだ。
ドイツの民主主義は、悪戦苦闘した結果、それに成功しなかった。
コミュニストやソシアリストたちは、何をしていたのか。
本書に詳述されてはいないが、「社会民主党も共産党も、その党内には官僚的で軍隊的空気が強く、党員大衆の中で自由な批判的精神をもつものはまことに少なかったので、上層部の指令に従順に服従する雰囲気と、組織内での異端や反抗を許さない偏狭な気風とができあがっていた」と、さらりと述べられている。