田中琢・佐原真『考古学の散歩道』

 考古学の周辺に関するエッセイ集。

 学問的なテーマについて、突っ込んだ論究があるわけではない。
 考古学周辺の様々な問題や学問的な問題について、ざっくばらんに語られている。

 照葉樹林からアカマツ林への遷移があったことが、花粉分析によって立証されている。
 古墳時代くらいまでの大和・河内は照葉樹林だったのだが、その後、アカマツ林へと遷移している。

 古墳時代以降、照葉樹林が伐採され、アカマツ林が展開する。
 標高の比較的低いところでは、森林が伐採されたのち、まずアカマツ林が展開するのである。

 畿内では、古墳時代だけでなく、律令制時代と戦国時代に、大伐採の時代を経験する。
 その結果、原生林は消滅し、巨大建造物の材となるような樹木は、美濃や信州など、中部地方に求めざるを得なくなる。

 アカマツ林には松茸が発生するので、ダメというわけではないが、水分と栄養に乏しい、荒れた山であることは間違いない。
 関東は、畿内ほど過酷な伐採を経験しなかったから、原生林も残されたし、コナラ・クヌギなどが植えられて里山雑木林が、人為によって作られた。
 里山雑木林は、製炭原料を提供するだけでなく、水源涵養の機能も併せ持ったから、山は荒れなかった。

 上は一例だが、肩のこらない話題ながら、考古学と歴史と隣接する諸学とを縦横に行き来する、楽しい本だった。

(ISBN4-00-430312-5 C0221 P580E 1993,11 岩波新書 2025,1,20 読了)

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