山崎豊子『花のれん』

 吉本せいの半生記。小説なので、どの程度が事実なのかは、正直言ってわからない。

 寄席で演じられる大衆芸能は、大阪の民衆にとって最大の楽しみだったのだろう。

 落語がちょっと敷居の高い芸だった時代に、今はあまり顧みられることのないたくさんの芸があって、この作品でそれは色物と呼ばれている。
 吉本せいをモデルにした主人公・河島多加は、寄席に進出した当初、色物を中心に番組を作り、安価な席料で人気を博したとある。

 江戸時代以来の口誦話芸が、自由民権期以降、思想を表現するツールともなり、庶民にとってもっとも卑近な楽しみへと発展していった。
 河島多加は、大衆芸能のプロデューサ・根っからの大阪商人として成功した。

 本書を読みながら、なにが快感だったかといえば、大阪言葉の、得も言われぬ美しさである。
 商人言葉だから、いかに相手の癇に触れぬかは基本であるとして、商都の民衆の日常が、ここにこそよく表現さされていると感じる。

(ISBN978-4-10-110403-4 C0193 \550E 1961,8 新潮文庫 2025,1,6 読了)

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