ナチスは悪いこともしたがよいことをした点も認めるべきだ、という論に対し、事実はどうだったのかを歴史的に検証している。
ネット上には、あの歴史的事実の真相はじつはこうだった、という言説があふれている。
歴史の研究は通説を否定することによって進んでいくものなので、そのような言説をすべて否定するのは間違っている。
しかし、それらの多くが本書のいう「トンネル視線」(自分にとって都合の良いところだけを照らし出し、それ以外が見えなくなっている状態)であることは否めない。
そのような不正確な言説を再生産する人々の目にふれるかどうかは別として、歴史的な検証は必要である。
著者らは、事実(それが例えばナチス独自の政策だったかどうかなどを含む)を集積することも重要ながら、その政策的意図や他のどんな政策とセットで立案されたかなどをも掘り下げて論ずるべきだと主張される。
その点は重要だろう。
「良いこと」と言われるナチスの政策は、人種隔離・絶滅政策や反社会主義・反民主主義制作とセットになったものがほとんどだった。
したがって、「良いこと」のほとんどは、「良いこと」によって利益を得ることかできる人々にとっての「良いこと」でしかなかった。
著者らがナチスについて論じている論理は、他の歴史事象についても当てはまる。
そのような意味で学ぶべき点が多かった。