田野大輔『ファシズムの教室』

 ファシズムを疑似体験するロールプレイング授業の実践報告。大学の授業である。

 授業の内容は、集団で服装や思考・行動を一致させ、敵ないし排除すべき存在とみなした人間を圧迫する集団的な実験の結果、どのような心理的変化が生じるかを分析させるというものである。

 ファシズム(ナチズム)はまさに、そのような集団心理を巧妙に利用してドイツ人の民族的熱狂を作り出し、ヨーロッパ征服へと向かわせた。
 1930年代のドイツ人が異常な精神状態にあったわけではない。
 ナチズムは来たるべくして到来した。

 とすれば、ドイツ人はなぜ、ヒトラーを熱狂的に支持したのか。
 著者は、独裁者は暴力のみによって独裁を実現するのでなく、熱狂的な支持者が熱狂することによって独裁が実現したと述べる。

 ドイツ民衆はなぜ、ヒトラーに熱狂したのか。

 本書は教育の本であって、歴史の本ではないと思われる。
 したがって、その点についての歴史的分析は詳しくない。
 だが、戦時体制下にあってもナチスがドイツ国民の消費生活を保障しようとしたことはよく言われており、本書にもそのことが書かれている。
 ナチス政権は、嘘や詭計のみによって成立したのでなく、ドイツ国民の支持によって成立したことは間違いない。

 ナチス風の集団を作って排外主義的な行動を体験させることによって、この授業を受けた学生の多くは、集団で排外主義に酔うことの愉悦感を持ったようだ。

 本書は、ファシズムの心理を考察した本である。
 だが、このような心理は、ファシズムに限ったものとは限らないのではないか。

 スターリン時代のソ連・文革期の中国においても、同様な状況が現出した。
 現代日本であれば、自由民主党やその他の体制的な政党は、党員を思想的に統一するということはしないし、できない。
 しかし共産党は、思想的な統一を志向するグループだから、ちょっと危ないかもしれない。

(ISBN978-4-272-21123-4 C0031 \1600E 2020,4 大月書店 2024,1,1 読了)

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