不破哲三『干渉と内通の記録(上)』

 ソ連崩壊後に公開された秘密文書に基づき、ソ連共産党が日本共産党に対しどのような破壊工作を行っていたかを明らかにしている。

 ソ連による謀略活動は、日本の歴史にとっての重大性はさほどまで大きくなかったかもしれないが、日本共産党にすれば、許しがたく卑劣な破壊活動だった。
 著者は本書執筆当時、共産党の最高指導者だったから、この破壊活動の実態を、怒りを込めて描き出しているが、それは当然だろう。
 ソ連共産党は、フルシチョフの時代になっても、ブレジネフの時代になっても、スターリン時代と何も変わっていなかった。

 マルクス主義は、科学的社会主義を自称する。
 科学に終点はなく、時代が変わり、状況が変われば、新たな理論的進化が求められ、忌憚のない論争を経て深まっていく。

 偶像崇拝が始まったのは。レーニン死後のスターリン時代だろう。
 党と指導者が真理を独占して、自ら考えることなく指導者に盲従する風習は、スターリン時代に確立し、ソ連以外の共産党もまた、それに倣った。

 1950年代における日本共産党の混迷の原因が事大主義にあったことを、宮本顕治氏らは見抜き、そこから脱却することによって日本共産党を再建した。
 農山村に拠点を築いて武力革命をめざすべきだという理論が存在することが悪だったわけではなく、日本の現実を分析した上で、どのような変革のあり方があるべきなのかを徹底的に議論すればよかったのだし、宮本氏らがそうしたのは、敬服すべき指導性であり、社会主義運動の王道を歩むものだったと言える。

 革命路線をめぐる論争が存在することは自然なことただが、特定の論者にソ連の秘密資金が流入していたとなると、その論者はソ連の手先でしかなく、それはフェアな論争とは言えない。
 本書により明らかになった志賀義雄氏らの言動は、著者ならずとも醜悪と言わざるを得ない。

 革命家とはまず、自分の頭でものを考える人でなければならない。
 獄中何年だろうが、それができなくては、社会主義者を名乗るべきでない。

(ISBN4-406-02202-C0031 \2500E 1993,9 新日本出版社 2023,12,6 読了)

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