春日太郎『山里に花開く高遠の石工』

 高遠石工と守屋貞治についての概略と、守屋仏・高遠仏を求めての紀行文。

 さほど詳しく書かれているわけではなく、歴史学的な著作でもないが、高遠仏と守屋貞治については、本書により概ね理解できる。

 高遠石工は、山村における副業として、江戸時代に確立したという。
 山村でありさえすれば石工業が殷賑を極めるわけでないから、石仏彫刻に適した石材(輝緑岩)が産出することなども、必要条件だっただろう。

 高遠石工の活動範囲は、東日本から西日本の一部にかけての、かなり広範囲に渡っていた。
 驚いたことに、自宅近くの31番札所の石仁王や数々の石仏も、高遠石工の作品だという。

 あまり知られていないと思うが、31番周辺の石仏は秀作揃いである。
 31番札所以外にも、山道に「おっ」と思わせるような石仏を見かけることもある。

 石仏は風化するものだから、作者銘などは消えていることも多いが、これからは銘にも注意して観察しよう。

(1990,5 ぎょうせい 2023,11,3読了)

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