独ソ戦・ポーランド・ユーゴスラビア解放戦に関する、優れた歴史叙述。
著者が単独で調べて書いたとは、とても思えない。数人のスタッフの協力がなければこんな本を書くことはできない。
スターリンとヒトラーがポーランド解体・分割を密約して世界大戦に踏み出したことは知られていたが、スターリンがポーランドの抹殺を図っていたことが描かれている。
カチンの森は、ソ連によるポーランド抹殺のごく一部に過ぎなかった。
コミンテルンによるポーランド共産党解体は、ポーランド抹殺の除幕だったというわけだ。
「ポーランド解放」とは、「ポーランド抹殺」と全くの同義語だった。
ここで気になった叙述がある。
ポーランドへ侵攻するソ連軍には、三つの波があったという。
第一の波は、正規軍。
第二の波は、貧弱な装備しか持たない囚人・ならず者部隊。
この第二部隊は、占領地で略奪・暴行の主力部隊となった。
そして第三の波は、味方を監視し、逃亡しようとする兵士の射殺を担当する督戦隊。
著者は、この部隊を、НКВД(NKVD)の特殊部隊だと書いておられる。
驚いたことに、この部隊構成は、2023年現在のロシア軍にも、そのまま引き継がれている。
ユーゴスラビアは、他の東欧諸国とは異なる展開となった。
スターリンは、ポーランド分割をヒトラーと相談したときと同じように、チャーチルとユーゴ解体を目論んでおり、国王派のロンドン亡命政府や国内ファシスト軍と繋がろうとしており、ユーゴ共産党に対し、亡命政府やファシストとの妥協を指示した。
チトーがめざしていたのは、徹底した反ファシズム・民主主義闘争だったから、スターリンの意図とは異なっていた。
ユーゴ問題についての叙述は、次の巻に続く。