張承志『紅衛兵の時代』

 文化大革命とは、醜悪な権力闘争以外の何ものでもなかったのだが、その一環として飛び跳ねたのが、紅衛兵と自称する学生たちだった。
 1960年代末における世界の学生運動について、全面否定する気は毛頭ない。

 しかし、そこに内包されていた独善性や思考停止についての、免罪は無用だ。
 著者は、当時高校生だった、「紅衛兵」の命名者だという。

 著者の思想の根本にあるのは、ありえないほどの事大主義・無思想だ。


素早く毛主席語録を引用したものが論戦で優位に立った。これが文革初期の中国人民すべての基本的な政治スタイルだった。このスタイルは実は清華付中紅衛兵の発明でもあった。

 考えることなくものを言い、考えることなく行動するスタイルを誇りにするとは、驚きだ。


四日後、毛沢東主席が紅衛兵を謁見し、そのうえ紅衛兵の腕章をつけた。これが有名な(八・一八)である。紅衛兵は全世界を震撼させた。

 これほど児戯に等しい、愚かな文章を見たのも、久しぶりだ。
 毛沢東の愚かさと、考えることなき人々の恥知らずを見ると、こっちが恥ずかしい。

 著者らはその後下放されるが、その前に仲間たちとともに、長征ごっこを敢行する。
 単なる無銭旅行だが、そんな愚行が毛沢東と関連づけられると、革命の一環のように粉飾されるのだから、笑止千万だ。

 中国はまだ、理性の国には程遠いと思える。

(ISBN4-00-430222-6 C0229 \550E 1992,4 岩波新書 2023,7,31 読了)

月別 アーカイブ