シベリア抑留から生還した庶民の一代記。
このところ、戦国時代史に関する本を読んでいて、餓死させられたり理不尽に殺されたりする、この時代の酷薄さを痛感していた。
江戸時代は、そのような意味で言えば、平和な時代だったと言える。
しかし、明治時代末から再び酷薄な時代に突入し、十五年戦争においてそれはピークに達した。
戦争による痛苦は国民すべてが甘受すべきものだったなどと、国家は言っているが、それはとんでもない大嘘で、戦争という巨大プロジェクトの過程で甘い汁を吸った人々の存在を忘れてはならない。
そして罪なき多くの民は、たった一つの命をまっとうするために、国家により翻弄されたのである。
本書の主人公である方は、生きるために幼少時から、職業と住所を転々とし、軍隊生活しばしののちシベリアに抑留され、復員後病に冒されたが個人商店経営者として戦後を生き抜いてこられた。
軍隊生活と戦争は、個人の人生にとって理不尽以外の何ものでもない。
その理不尽さを「運が悪かった」で片付けるのでなく、著者が言われるように、その意味を考えなければいけない。