藤木久志『城と隠物の戦国誌』

 酷薄な戦国時代の社会をいきいきと描いた本。

 1980年代の戦国時代史とはまったく異なる歴史が描かれている。
 とてもリアルで、戦国を生きた民衆の表情まで浮かんでくるほどだ。

 ルール無用の暴力の時代だった戦国時代に、民衆が生命を全うし、財産を保全するのは、並大抵の困難ではなかった。
 拉致や略奪から村を守るために、敵の大名軍と交渉し、金銭・財物と交換に暴力の行使を制限してもらうこともあったし、自ら武装して暴力と戦う場合もあった。
 暴力による乱暴・略奪を行うのは武将以下の兵士だけとはかぎらず、自分たち同様の民衆である場合もあった。

 暴力の行使を制止できるのは、もっとも強力な暴力を持つ武将以外になかったが、武将の力関係は刻々と変化したから、村にとって自衛力・外交力はとても重要だった。
 それでも、村が暴力に蹂躙されることは、ままあり得た。
 そんなときに、すべてを失う悲惨を免れるために、戦国の民衆は、鍋釜茶碗など、じつにささやかな家財道具を誰かに預けたり、土中に埋めて隠したという。

 最近、戦国時代の城址を勝手に発掘して宝探しをするものがいるというニュースを目にした。
 これはやめてほしい。
 戦国城址の多くは、人々の一時的な退避場所だったのだから、当時の民衆生活の一端を知る出土物があるかもしれない。
 一方、金銀財宝のたぐいが出てくる可能性はほとんどない。

 滅亡したにもかかわらず、北条氏関連の文書は他の戦国大名と比較して多いらしく、西上州や北武蔵に関連する史実もいくつか紹介されている。
 これらも興味深い。

(ISBN978-4-02-259961-2 C0321 \1300E 2009,12 朝日新聞出版 2023,5,27 読了)

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