赤城弘『再起』

 加波山事件参加者で、無知徒刑の判決を受け、空知集治監で獄死した原利八を描いた小説。

 原利八は会津・喜多方の人で、福島・喜多方事件以来の自由党アクティブだったと思われる。
 喜多方事件当時に彼がどのような活動を行っていたかは承知していないが、福島自由党の古参党員だったことは間違いないだろう。

 加波山事件参加者の半数以上が福島県出身者で占められているのは、この事件に至る伏線の一つが、福島自由党に大打撃を与えた三島通庸への復讐だったからである。

 本書の第三部で、かなり詳細に彼の裁判記録が引用されている。
 加波山事件の裁判で国家の側は、思想ではなく、行為のみを裁いた。このやり方はその後の秩父事件裁判にも引き継がれた。

 そうすると、事件は強盗・殺人などといった破廉恥犯の扱いとなる。
 事件の際に頒布された檄文を一読すれば、これが国事犯だとわかるにもかかわらず。
 それにしても原利八の供述は淡々として、どこか他人ごとのように事件を語っている。

 国家の意図に従って犯罪を描くのが明治期の政治裁判だった。
 また被告は、仲間に累を及ぼすことを避けるために、事実を隠す場合が大いにある。
 従って、激化事件参加者の供述は、その紙背にある事実を読みとることが必要である。(かといって読み手の主観により強引に歴史を描きだそうとするのは妄想でしかない)

 利八の供述から、思想的な背景は、ほとんど感じられない。
 この供述だけをもって原利八を論ずることは不可能である。

 著者は歴史研究者であるが、事件から四ヶ月半後に逮捕され、北海道に送られて死去するまでの利八の心境を小説形式で描いている。
 過去にも述べたことだが、史実へのアプローチ方法は、歴史学的な研究だけとは限らない。
 彼の供述が多くを語っていないことをもって、喜多方事件以来の活動家だった彼の思想性を否定するごとき評価は、まったく不当である。

 著名人であれ無名の民衆であれ、人をとある一面だけをもって評価すべきでない。
 人はすべて、さまざまな面を持つ、複雑な存在なのである。

(ISBN978-4-86435-543-8 C0095 \1800E 2022,11 コールサック社 2023,4,13 読了)

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