ペリー来航時の幕府の対応や民衆の反応について、社会史的に詳説している、興味深い本。
ペリー来航に関しては、それが幕府に与えた政治史的な衝撃について分析されることが多いと思われる。
本書はまず、ペリー側の状況について詳しく述べ、ペリーがただならぬ決意と準備をもって訪日したことが明らかにされる。
幕府にとって、ペリー来航は青天の霹靂というようなものではなく、ある程度は想定の範囲内だった。
ただし、開国要求は幕府にとってただならない事態だから、情報収集と対応の検討は容易でなかった。
とはいえ、オランダからの情報やジョン万次郎からの聞き取りは、幕府にとって貴重だった。
黒船来航のニュースは瞬く間に全国に広がり、民衆の関心をまきおこした。
幕府にとって、江戸湾の防備・条約への対応だけでなく、黒船を見ようとする数多の民衆の取り締まりも、難儀な課題となった。
二度目の来航時には吉田松陰による密航未遂事件も起きている。
ともあれ、ペリー側のていねいかつ断固たる対応と、幕府側のまずはソツのない対応により、無事に和親条約が締結された。
大きな外交交渉を成し遂げたペリーは、充実感に満たされただろうが、幕府には次なる難問が待ち受け、江戸時代は血なまぐさいフィナーレへと展開していく。
重要な分析があるとかでなく、歴史叙述としてわかりやすく、読むものを飽きさせない、好著だった。