大久保利謙『日本近代史学事始め』

 日本近代史がどのようにして学問として成立したのかを語った回想記。

 日本近代史がどのようにして学問として成立したのかを語った回想記。

 著者が近代史研究を始められたころの東京大学では、明治以降の歴史は本格的な研究対象になっていなかった。
 著者は、大学史や薩摩藩史・シーボルト史料研究などを通して近代史料を研究され、西周・津田真道全集編纂により近代思想史を深められる。

 著者が精魂込めて研究に打ち込んでおられた昭和前期は、戦争とファシズムが国中を覆っていた時代だが、この回想には、社会の暗い影は全く見えない。

 強く興味を引かれるのは、明治憲法50年を前に憲政史編纂会(委員長は尾佐竹猛 事実上の事務局長は鈴木安蔵)が組織され、大日本帝国憲法制定史を始めとする明治前期の史料が大々的に収集されたという事実だった。

 このとき、伊藤博文・伊東巳代治・井上毅らの文書が収集され、憲法制定関連に限らず、明治前期の基本史料が集まっただけでなく、自由民権運動関連の史料も集められたという。
 民権運動関連史料の中には、私擬憲法も含まれていただろう。

 占領下の1945年12月に民間団体の憲法研究会が日本国憲法につながる新憲法案を発表していたことが知られているが、憲法研究会の事務局を担当していたのは、前記鈴木安蔵だった。
 民権期の私擬憲法が、鈴木安蔵を通して日本国憲法につながるのだが、それは、著者らによる近代史料編纂事業があってのことだった。

 自分など、全くふれたこともない学問の世界だが、著者のような碩学が厳しい史料編纂事業に従事されたことが、研究のすべての土台になっていることを銘記したいと思う。

(1996,1 岩波新書 1996,2,26 読了 2022,11,15再読)

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