1930年代半ばにソ連で起きた共産党と赤軍における逆クーデターの内幕を描いている。
スターリン自身が陰謀の塊なので、本書は最初から最後まで、ソ連とナチスドイツによる陰謀ばかりが書かれていて、どこからどこまでが信用に足る記述なのか、よくわからない。
スターリンによる事実上のクーデターは、レーニン死後まもなくの1920年代半ばから、ナチズムが伸長しつつあった1930年代半ばまで続いた。
1937年、ソ連軍の最高指導者の一人だったトハチェフスキーらによるクーデター計画がスターリンの耳に入った。
これを仕掛けたのがナチス諜報部隊(SD)のR・ハイドリッヒだったことが本書のメインなのだが、細部についてはともかく、その点については事実だろうと思われる。
そうすると、ソ連軍の支柱であり、名将と言われたトハチェフスキーを打倒することによって、来たるべき独ソ戦を有利に運ぼうとしたという陰謀論に現実味が出てくるのだが、そこまで深読みしていいかどうかはわからない。
ハイドリッヒの陰謀がどうだったかにかかわらず、スターリンによる赤軍大粛清は起きただろう。
粛清・虐殺されたのはソ連軍だけでなく、共産党やコミンテルンの幹部も含まれている。
スターリンに媚びないすべての人々が革命の名のもとに抹殺されたのが、スターリン時代というものだったからである。
共産党の中に個人崇拝の風潮を確立したスターリンの罪は、深刻だった。
ソ連ではその後スターリン批判が行われ、個人崇拝は絶たれたが、その風潮は中国共産党・朝鮮労働党に受け継がれ、朝鮮労働党では封建時代に似た社会主義王朝体制が実現した。
個人より党を上におくという組織のあり方も、スターリン時代の遺産である。
これも、考え直さなければならない。