井深大氏がものづくりの核心はなにかということについて縦横に語られている。
ものづくりの原点は、このようなものがあればよいのにという思いや、このようなものを作ることができれば面白いだろうというような、素朴な思いなのだろう。
それを実際に作ることができるかどうかは、技術力の問題になるのだが、本書を読むと、そのような「思い」は技術以上に成否を決める要素らしい。
もっとも、その時どきに明らかになっている知見を集約し、改良を加えた製品を作るのもまた、ものづくりである。
いずれが王道と感じるかは価値観によるが、著者は、不可能を可能にする技術的挑戦に伴う知的なエキサイト感というか、創造性のようなものが、ものづくりには必要だと感じておられたようだ。
会社が大きくなると、システマチックな組織を作らざるを得ない。
システムが、個性を持つ一人ひとりの人間にフィットするとは限らず、人間を毀損することがないとは言えない。
それならいっそ、会社は小さい方が社員の創造力を発揮できる場合がある。
人間にとって会社は、傘の下に入れてもらう代わりに自分を奴隷化させられる入れ物でなく、何かを作りたい・やりたい人々が集まる集団であるべきだというのが、著者の理想だったのだと思われる。