オウム真理教に入信した人々の心性をわかりやすく分析しており、一連のオウム事件とは何だったのかを鮮やかに描いている。
著者が集められた、死刑囚を始め、何人かの元信者の談話や手記によって教祖以外のオウム信者の思考回路が明らかにされている。
信者らは教祖の言説を絶対視していたから、例えば教祖が指示した殺人を実行することは、被害者を救済することであると信じていた。
また、ある人物の財産を詐取することは、その人物の罪業を軽減して、悪しき輪廻から救済することである。
これは驚くべき内容だが、殺人や財産詐取を彼らなりに合理化できる理論であり、その理論に従うならば確かに犯罪は崇高な行為と解釈できるのである。
しかし、それが荒唐無稽な詭弁だということくらい、ちょっと考えればわかりそうな気がする。
本書では、高度な知識を持つ青年たちが詭弁に疑いを持たず、正義感を持ちつつ犯罪に走った背景として、超常現象ブームの存在を指摘している。
自分もほぼ同世代なのだが、そういえばそうだったという程度の記憶しかない。
宗教的な思考が全て害悪だとは思わないが、人間にはそれより、哲学的な思考が必要なのではないか。
著者が言われるように、社会に不安がある限り、カルトはきっと繰り返す。
たくましく考える力こそが、状況を切り開くということを、若い人々に伝えたい。