研究書ではなく、気軽に読むことができる昭和史裏面史。
取り上げられている人物は、東條英機、石原莞爾、犬養毅、渡辺錠太郎、瀬島龍三、吉田茂である。
いずれも、興味深い問題が指摘されている。
石原莞爾について、やや詳しく書かれている。
確か『昭和の名将と愚将』の中でも、著者は石原を名将のカテゴリに入れておられたと思う。
東條と比較して利口だったからといって、満州事変の実行者を名将と祭り上げることには無理がある。
石原の思想的核心は「世界最終戦論」だろう。
「世界最終戦論」とは、戦争史を歴史的に振り返って、当時の世界を大きく把握しようとしたものであるが、細部に的を射た部分があるにせよ、全体としては、「日本」を中心とする世界の現出を展望しようとする。
軍の一部にはウケそうな議論だが、独善論であり、観念論である。
将兵を手駒とした妄想の産物だが、これが実行されれば何千万人もの命が失われる。
作戦を考える人々にとって、命の喪失は手駒の喪失でしかないから、それは一種のゲームでしかない。
石原の思想を奥深いものと考えてあれこれ分析するという営為は、ゲームの攻略法をあれこれ考えるのと同じで、知的刺激にはなるかもしれないが、それが何を意味しているのか、まずは考えるべきだろう。
東條の人物は、その石原にさえ遠く及ばなかったのだから、戦前の「日本」は、現在同様、よほど人に枯渇していたのである。