「南方」へ出征したあと、戦後、「日本」への帰国を拒否したもと兵士への聞き書き。
戦後すぐの時期には、おおぜいの残留元兵士がいたのだが、この聞きとりが行われたのは1990年代だから、その時点で後に帰国したり、亡くなった人々が多く、著者が把握できたのは、本書に登場する十数名の人々のみだったという。
帰国を拒否するというと、例えば思想的な理由などがあるのかと思ってしまうが、読んでみると、そのような背景を持つ人は一人もおらず、ほとんどが偶然的な理由で残留を決意し、一時帰国したあともそれぞれ定住先に戻っておられる。
強い望郷の念を語っている人もいない。
生まれ育った故地への愛惜の情は、人それぞれなのであり、こうでなければ人でなしだというような感覚自体がおかしいのである。
人にとって大切なのは、根を下ろすことなのだろう。
ところで本書は、記述が細切れで、読みにくいことこの上なかった。