アジア・太平洋戦争期間における「日本」軍兵士の「身体」に関わる史実をていねいに分析した書。
戦争を忌避する感情が薄れててきつつある最も基本的な要因は、記憶が消えつつあるからである。
「日本」人にとって戦争は、自分の体験を中心として記憶されていた。
前線を体験しなかった人にとって戦争とは「空襲」や「飢餓」や「疎開」だった。
男子の相当多くは徴兵され、前線も経験した。
悲惨でない戦争はありえないが、「銃後」の戦争と前線の戦争とでは、悲惨さは桁違いだと思われる。
戦争である以上、相手が存在するわけで、悲惨だったのは自分たちだけではない。
しかし、前線における悲惨は、そのようなことへの想像力が働く余地など、全く存在できないほどのものだった。
行動するのに必要な食糧が与えられず、餓死。
治療具も薬品もないから、病人・負傷者に対するまともな治療が行われず、苦痛に呻吟しつつ傷病死。
動けなくなれば、捕虜になるのを恐れ、自決強要。
人の人生は事実、一銭五厘の価値しか持たなかったのである。
直接体験した人々はもはやほとんど存在しないから、伝えるしかない。
なにをどれくらい、どれだけの時間をかけて、どのように伝えるのか。
伝えるべき内容は、例えば本書の中に大量に存在する。