維新後の西郷隆盛を、大久保利通・川路利良・桐野利秋と絡ませながら描いた小説。
明治維新は幕府を打倒し、天皇を旗頭とする政府を樹立したが、明確な国家構想があったわけではなく、のちに「元勲」と呼ばれるようになる数名の人々が暗中模索している状態だった。
「元勲」の頂点にいたのは長州の木戸と薩摩の西郷だった。
木戸は、遠からず立憲政体へ移行することを想定していたらしいが、西郷が何を考えていたのかは、わかっていない。
ことによると、ほとんど考えていなかった可能性もある。
征韓論の動機を著者は、ロシアの南下への対抗策と考えておられるようである。
極東情勢をグローバルに把握する力が西郷にあったかどうか疑わしく、基本的には不平士族対策と考えたい。
西郷と同じく下野した人々のうち、江藤新平と板垣退助・前原一誠について、著者の評価は低い。
江藤と前原については、ほとんど滑稽なまでに見通しのない人物に描かれる。板垣もほぼ大同小異である。
西南戦争の原因については、川路の西郷暗殺指令(これが史実と断定してはいないが)を重視している。
そして、西郷軍の挙兵については、桐野の煽動が決定的とみる。
西郷軍の拙戦の原因については、桐野の無能が何度となく指摘される。
作品としては壮大だが、西郷とは要するに何だったのか、著者にも読者にも、はっきりとは見えてこない。
西郷隆盛が、ものを考える能力に乏しい不平士族にのせられた、単なる好々爺でよかったのか。