飯田進『地獄の日本兵』

 ニューギニア戦線の実相をまとめた書。
 太平洋戦争のターニングポイントはミッドウェー海戦だったが、補給線壊滅後の絶望的な戦いは、ガダルカナルから始まった。

 この世の地獄とも思われたソロモン諸島・ガダルカナルの攻防戦はニューギニア戦線と一体的に戦われたといえる。
 密林に覆われた峻険な熱帯の島で、食糧・火力量など日本軍を圧倒的したアメリカ軍と絶望的な戦いを強いられた点で、ガ島とニューギニアはほぼ共通する。

 ガダルカナル・ニューギニアでの敗北は、ミッドウェーにおける大敗の次の致命的敗北だった。
 敗因については、作戦上の問題、海上輸送システムが崩壊していた問題などが多くの書物で指摘されている。

 本書は、現場で戦った兵士・下士官による回想を中心に、ニューギニア作戦を振り返っている。

 ガ島とニューギニアは日本軍の兵士にとって、きわめて悲惨な戦場だった。
 敵と戦って戦死するのも、特攻兵器に搭乗して死ぬのも悲惨だが、ガ島・ニューギニアでは、ほとんどの兵士が餓死・病死した。
 それでは、敵に対しなんの損害も与えることがない。

 戦死者230万人のうち、餓死・病死が60パーセントを占めるという説がある。
 この説はおそらく正しい。
 この事実を知る必要がある。

 死なない兵士は食わねばならない。
 食うものが少ないのだから、兵士には死んでもらうしかない。
 肉弾戦は、日本軍得意の作戦だったが、それは勝つための作戦とも言えなかった。

 火力で圧倒的なアメリカ軍陣地への斬り込みとて、敵に恐怖を与えることくらいはありえても、実質的には自爆作戦同様、生命のいたずらな消耗だった。

 人に無駄な死はないと信じたいが、南洋やフィリピンでは、大勢の日本兵が、武器も持たず敵と戦わず、いたるところで朽ちていったのである。
 これらの死が、戦況にいかなる意味をつけ加えたのか。

 病みかつ飢えた兵士は、味方からも盗み、奪った。
 それがニューギニア・ソロモン戦だった。
 これは、記憶されなければならない。

(ISBN978-4-10-610273-8 C0221 \680E 2008,7 新潮新書 2018,2,23 読了)