山名にどのような意味があるのかをあれこれ詮索した書。
山名のいわれについて、主として地元で、いろいろな説明がなされていることが多い。
しかしそれらのほとんどは、根拠の薄弱なこじつけだ。
多くのユニークな山名の由来を、説得力を持って解いた研究がないものかと思っている。
無知な自治体官僚が山名を改変したりすることもある。
これなどは文化を破壊するに等しい行為である。
そんな中で本書は、山名の解読に一定程度まで成功しているように感じる。
古い山岳地名は、朝鮮語やアイヌ語を含めた古語に遡らないと、解けない。
本書は、そこを詮索して山名を解きほぐしているところに、説得力がある。
「山」の音読みを「サン」と読むのは唐の読み方で、「セン」と読むのは呉の読み方だという。
弥山のように、「セン」と読む山名の分布を見れば、呉の文化的影響を受けた地域がどこか、わかってくるということだ。
日本の古語で「ウラ」とは末端を示すらしい。
その解釈を敷衍すれば、「日向沢ノ峰(ウラ)」が解ける。
納得の行く説明も多いのだが、著者の饒舌に疑問も多かった。
例えば、「秩父・荒川船下り途中にある片仮名書きのヨウバケも、お化けの沢の仲間である」などと説いているが、「ようばけ」は荒川でなく、赤平川にあり、赤平川に船下りなどない。
ほんとに厳密に考証してあるのかどうか疑われる部分があると、全面的に信用するわけにはいかなくなる。
同感する部分の多い本書だが、「こういう説もある」という程度に受けとめておいたほうがよさそうだ。