上官殺害・敵前逃亡など、太平洋戦争当時に起きた、語られない事件を描いた小説集である。
戦闘という状況下においては、「個人」の存在は許されない。
「個人」は、生きつづけること、自分であり続けることを希求するが、それを認めては戦闘が成り立たないからである。
兵士は、「陸軍刑法」や「戦陣訓」によって、自分が「無」であることを理解させられる。
人は元来、そのようなことを理解できないのだが、軍隊という、外界から遮断された特殊な世界で暴力的に馴化される。
旗とは、集団のシンボルとして機能するモノである。
旗の前で、「個人」は「無」と化す。
「革命の旗」とて、「個人」を許容しない。
旗への拝礼を強要する社会は、拒否したい。