満州事変前後の時代を、主として外交面からあとづけている。
リットンの残した史料等が駆使されており、「日本」がどのようにして国際連盟から脱退したかを、鮮やかに描いた本である。
柳条湖事件は、内閣・軍のいずれが企図したわけでもなく、出先である関東軍のそのまた一部によって起こされた。
本書には、関東軍の本庄司令官さえ、事件に関わっていなかったという事実が記されている。
にもかかわらず、日本軍(関東軍)は満州全土に軍を展開させ、占領した。
共産党との内戦を戦っていた蒋介石と張学良は、「日本」への武力抵抗を避け、国際連盟での言論戦をとった。
満州を「独立国」化する方針を書いたのは石原莞爾だが、彼は、政府がその方針を受け入れなければ、関東軍が「日本」国籍を離脱するとまで言っている。
石原は、天皇の統帥権など、最初から認めていなかったのである。
この点は、しっかりノートしておきたい。
陸軍の相当部分と海軍の一部に存在した極右思想は、天皇を神格視し、天皇を国家の中心に据えた「国体」を絶対視するものだったから、石原莞爾あたりの思想とは矛盾する。
石原らの思想・行動は、国家の一機構である軍(この場合関東軍)が、国家とは別個に、独自の目標と戦略をもって動いてもよいというのと同じである。
大日本帝国では、将校に対する基本的な教育は、どうなっていたのか。
このような将校をきちんと指導するシステム、指導する上司は存在しなかったのか。
じつに、お粗末である。
そして政府も参謀本部も、事態を追認した。
統帥が全く機能していない。
唯一、外交官たちは、破局を回避するためにぎりぎりの努力を重ねていたが、関東軍も参謀本部も政府も、世界からの孤立を避ける努力を全くしなかった。
現場は現場の論理で軍を動かすことが常態化し、満州国成立・熱河省併合・満州国承認と政府は現場に引きずられ、いつしか政府もマスコミも、現場とシンクロしつつ孤立化を牽引した。
「日本」はまさに、無責任国家だった。