中江兆民・幸徳秋水・吉野作造の素描。
自由民権運動から社会主義・大正デモクラシーという思想的流れの概略を追った本だが、タイトルほど全面的に思想をあとづけているわけではない。
これらの思想家についてきちんと理解するには、この本だけではとうてい足りない。
兆民についての記述では、彼の国家主義的。侵略主義的側面を指摘している点が目を引く。
『三酔人経綸問答』に登場する「南海先生」が、兆民に擬されると考えがちだが、「豪傑君」もまた、兆民なのである。
兆民の自由民権思想がもともと国家主義を内包していたという指摘は、正当だと思える。
吉野作造の政治評論は、大正期の論点を彩る最も良質的な部分である。
彼は、政治の機構・選挙制度・対外関係その他をめぐって、天皇制そのものにふれない範囲で、デモクラシー的な改造を提起していた。
ところが彼の議論は、昭和期に受け継がれることがほとんどなかった。
彼は組織者ではなく、言論人だった。
言論の分野において、昭和初期のある時点から、デモクラシー的な部分が一掃された。
それはちょうど、彼が亡くなる前後だった。
彼の論説は浅いものではなかったと思うが、デモクラシー的な思潮がたやすく壊滅したのかは、さらに勉強する必要がある。