太平洋戦争の際に連合艦隊の先任参謀として作戦を担当した黒島亀人を描いた小説。
さほど綿密に調査・取材したようでなく、主観的な修飾文が多いので、どこまでが事実なのか、よくわからない。
黒島参謀は、真珠湾攻撃とミッドウェー海戦の作戦を立案した。
真珠湾では成功し、ミッドウェーでは失敗した。
作戦の成否にはそれぞれ、原因があるだろう。
彼は立案命令に従って作戦を立てたのであって、作戦の当否を判断する立場ではなかった。
極論すれば、彼はビジネスに従事しただけと言える。
フィリピンでの作戦でも、彼の作戦は芳しい結果をうまなかった。
上司だった山本五十六が戦死したあと、黒島は軍令部第二部長に転任する。
ここでの彼のビジネスは、特攻兵器の開発だった。
回天や桜花を始めとする各種特攻兵器を考案し、実践で使えるようにすることに、彼は心血を注いだらしい。
特攻作戦の立案・兵器開発・作戦命令など仕事は、連合国にとっての戦争犯罪には値しないから、彼は復員後、一市民として生活しているのだが、そのことに対しては、釈然としない。
黒島の仕事は、有為な「日本」の若者多数の命を散らすことだったから。
彼が仕事に心血を注ぐほど、「日本人」が死んだのだから。
戦後、彼はそのことに対する自分の責任について、何も語っていない。
それどころか、上司だった軍令部参謀長宇垣纏の日誌の一部を、戦後になって処分してしまったとの指摘もある(本書でその点については触れられていない)。
それが事実であれば、黒島は自分の責任を隠蔽したと言われても仕方がない。
「日本人」による戦争責任追及が行われなかったから、軍隊内で行われた理不尽な暴行や自死命令などに対しては結局、「お咎めなし」なのである。
これは、戦後「日本」の手抜かりだったというほかない。